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京都地方裁判所 昭和43年(ワ)1332号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔判決理由〕一、原告主張の請求の原因事実中第一項は、当事者間に争いがない。

そうすると、本件売買は、契約当時、地目上も現況も農地であるから、農地法三条による京都府知事の許可が法定条件になり、この許可がない限り、売買契約の効力は発生しない(最判昭和三六年五月二六日民集一五巻一四〇四頁参照)。

二、ところが、買受人である訴外亡青木光造(被告会社をのぞく被告青木らの被相続人)は、同条の許可申請の手続をする前に、本件農地を掘り下げて砂や砂利を採取搬出し、現況は池になつてしまつたことは当事者間に争いがない。

被告らは、本件農地は現況池になり農地でなくなつたため、本件売買契約は非農地の売買として有効になつたと主張しているが、当裁判所はこの見解をとらない。

成程、農地法は現況主義を建前としている(最判昭和三五年三月一七日民集一四巻四六一頁参照)。しかし、そうだからといつて、これを無制限につらぬくと、売主又は買主が非農地に現況を変更してしまえば、農地法の適用は潜脱される結果になる。それでは、農地法三条の精神は没却され、同法違反行為を奨励することになりかねない。

本件では、そのような農地法に反する行為をした買主側である被告らが、非農地性を理由に、本件売買契約が有効であることを主張していることは看過できない。

当裁判所は、本件のような場合には、いわゆるクリーンハンドの原則により、責のある買主側は、このことを理由に、売買契約の有効であることを適法に主張し得ないと解する見解をとる(最判昭和四二年一〇月二七日民集二一巻二一七一頁参照)。

三、本件農地について、農地法三条の許可申請が昭和四〇年五月になされ、これを受理した京都府綴喜郡八幡町農業委員会は、昭和四〇年六月一〇日、同年七月一二日の二回にわたつて委員会を開催して審理した結果、本件農地の現況池を農地に回復したとき許可をする方針をかため、申請の許否を留保したことが<証拠>によつて認められる。

従つて、原告が主張するように、京都府知事の許可が得られないことが確定的になつたとすることはできない。

しかし、原告は、この許可申請書を昭和四三年四月一五日になつて取り下げてしまつたことが、<証拠>によつて認められる。

さて、農地の売買において、買主が目的農地を非農地にしてしまい、売主には非農地にするについて何ら責められるべき事情がないときには、売主は、農地法三条による許可申請を拒否して農地売買契約を無効にすることができると解するのが相当である。そのわけは、前述したクリーハンドの原則によつて、そのような買主は、自ら非農地であることを理由に農地売買契約の有効性の主張ができない反面、非農地にするについて何ら責のない売主には、農地法三条による許可申請拒否権を与えることが信義、衡平に合致するからである。

そうすると、原告のみぎ申請取下げ行為は責められるべきではなく、この取下げによつて、本件売買契約は発効の余地がなくなり無効になつたと断ずるほかはない。

四、青木光造が原告主張の日に死亡し、被告青木ら(被告会社をのぞく)が、遺産相続によつて青木光造の権利義務を承継取得したことは当事者間に争いがない。

そうして、被告会社が、本件農地を占有していることは当事者間に争いがないところ、被告会社は、本件農地の占有についてなんらの正権原の主張、立証をしない。なお、本件売買契約は、前述のように無効であるから、被告会社は、そのほかの被告らの買主の地位を援用できないことは勿論である。

五、むすび

以上の次第で、本件売買契約は無効であるから、原告は本件農地の所有権者であるところ、被告らが原告のこの所有権を否認していることは、弁論の全趣旨によつて明らかである。従つて、原告が、被告らとの間で、本件農地の所有権が原告に属することの確認を求める利益があり、この請求は正当として認容しなければならない。そのほか、原告は、被告会社に対し本件農地の明渡しを請求しているが、この請求も正当として認容する。そこで、民訴法八九条、一九六条に従い、なお、被告会社の仮執行免脱宣言の申立を却下したうえで主文のとおり判決する。(古崎慶長)

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